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メーカー別の製品開発の傾向
◆2012年~2013年の業界と製品のトレンド
2012年初頭、スマートフォンやタブレットPC、ブックリーダー等の普及で、電子辞書が電子辞書アプリに置き換わり、電子辞書マーケットが大幅に縮小すると予想された。
しかし、現状、そうはなっていない。電子辞書の専用機としての使い勝手の良さが見直されている。
大学生・社会人から高校生、そして中学生へと電子辞書の販売ターゲットが若年齢化していた。小学生向け電子辞書まで発売されたが、中学生、小学生向け電子辞書は、売れ行きが今ひとつのようだ。
最近は、シニアや主婦を狙ったモデルが増えている。家庭の医学、薬、俳句、百人一首、家事、料理などをテーマとしたコンテンツを搭載した「生活・教養」「家庭・実用」タイプの電子辞書だ。
電子辞書の画面もカラーが主流となり、写真や図、音声などのデータを使ったコンテンツ搭載のモデルも人気となっている。
最近、電子辞書のデザインや価格にばらつきが出てきている。以前は、電子辞書のデザインや価格は似たり寄ったりで、搭載コンテンツ数や搭載コンテンツのユニークさを競っていた。
全体的に価格は年々下がっている。ビジネスマン向け・高校生向け、ともに、普及機は2万円台が出現。今も店頭に並ぶ2011年発売モデルでは2万円を切るモデルも出ている。
機能やコンテンツを絞ったタイプやコンパクトタイプでは、1万円前後がボリュームゾーン。1万円を切るモデルも出ている。
メーカー各社は、同じタイプのモデルでも、実売価格が1万円、2万円、3万円など、価格がばらけるように価格を意識した製品戦略をしているようだ。
カシオとシャープは、2012年春モデル以降~2013年2月はじめまで、大きな動きはない。
キヤノンは、2012年春モデル以降まで、とうとうマイナーチェンジのモデルすら発売がなかった。
セイコーインスツルは、年末になって、無線LAN機能とタッチパネル搭載の戦略製品投入を発表。一番の注目。
◆カシオ
「エクスワード」ブランドを展開。電子辞書のシェアNo.1の地位を今なお維持している。製品ラインナップの充実度も他社を圧倒。電子辞書マーケットにおけるトップメーカーであり、購入にあたって、どの機種も機能面やコンテンツのクオリティは心配する必要はまずないだろう。「迷ったらカシオ製」と思ってもいいほど、電子辞書はカシオ製を買っておけば間違いはない。
No.1メーカーだけに、オーソドックスで最高水準の機能性とコンテンツのモデルを、英語学習者・ビジネスマン・高校生・中学生・シニアなどそれぞれのターゲットに提供している。価格も他社競合モデルの中で最低水準。低価格化においても、電子辞書メーカーをリードしている。
カシオは、毎年1月~2月に、その年のラインナップを一新する。2012年は、製品番号「XD-D」ではじまる新シリーズを投入。「XD-D」シリーズをメインとして初心者向け「XD-SC」シリーズ、コンパクト「XD-C」シリーズがカタログに並ぶ。
2013年は、製品番号「XD-N」ではじまる新シリーズが新たに登場した。ただ、「XD-D」から機能面や新搭載コンテンツにおいて大きな変化はない。
近年の傾向としては、ラインナップの中でもビジネスマン向け、英語学習者向け、高校生向けなど、ユーザーの多いセグメントにはカラーバリエーションを用意して価格を抑えた普及機を投下。競合他社を寄せ付けない。現在、普及機は2万円台に。
こうした戦略に、競合他社は、ユニークなモデルやコンテンツや機能を絞った1万円以下のモデルで対抗している。
これも、ここ数年の傾向となっているが、春モデルで人気のあったモデルは、夏前頃に製品の型番を少し変更して後継機を発売する傾向にある。売上のよかった機種を増産するのではなく、搭載コンテンツの核となる部分はそのままでコンテンツを追加するなどのモデルを発売する。
2012年における、以下はそうした流れによるものだ。矢印の元が春モデル、矢印の先が後継機。ビジネスモデル「XD-D8500」→「XD-D8600」、生活・教養モデル「XD-D6500」→「XD-D6600」、高校生向け「XD-D4800」→「XD-D4850」、中学生向け「XD-D3800」→「XD-D3850」。
新モデル「XD-N」シリーズは、「XD-D」シリーズ同様、耐久性(タフパワー設計・堅牢ボディTAFCOT)に優れ、メインパネルとサブパネルのツインカラー液晶を搭載。タッチ操作・手書き入力に対応。もちろん、音声対応・コンテンツ追加対応。2010年「XD-A」シリーズ、2011年「XD-B」シリーズ同様に機能性は申し分ない。
◆シャープ
カシオに追いつけ追い越せ、電子辞書マーケットでカシオと2強に。2012年あたりから家電量販店店頭でもシャープ電子辞書の陳列スペースが広がっている。
シャープも、毎年1月~2月に、その年のラインナップを一新する。2012年の主力は、製品番号「PW-A」ではじまるビジネス・生活教養タイプ、「PW-G」ではじまる学生向けタイプ、「PW-AC」「PW-GC」ではじまるコンパクトタイプだ。
2013年に入り、2013年春モデルとして、ビジネスモデル「PW-A9300」と高校生向けモデル「PW-G5300」を投入。ただ、従来モデルと機能面や新等位コンテンツにおいて大きな変化はない。
コンパクトタイプは、機能とコンテンツを絞り2011年発売モデルは1万円前後の実売価格。2012年発売モデルでも1万5千円を切る。デザインもいい。カシオとマーケットがぶつからない価格帯でシェアを広げている。
シャープが得意とする見やすいディスプレイと動画や写真コンテンツを前面に押し出して、高校生向けとシニア向けに力を入れている。高校生向けには代々木ゼミナールの講義映像がキラーコンテンツだ。シニア向けにはカラー図鑑をアピールする。
最近、カシオの電子辞書は、文学作品とクラシック音楽のフレーズ収録を唱うモデルが増えているが、シャープの戦略を意識してのものだろう。2013年、電子辞書のシニアマーケットは戦場だ。
◆SII(セイコーインスツル)
2011年、2012年、新製品は後継機のみ。競合他社が搭載コンテンツのバランスを考えた多コンテンツ型の電子辞書を続々と投入する中で、あえてバランスを考えずに英語コンテンツに偏った製品ラインナップを続けていた。
上級英語学習者向けやビジネスの現場で英語が必要なプロフェッショナル向けの電子辞書はセイコーインスツルの独壇場だ。
この方針は、今でも変わらず、2012年12月時点で、全メーカーの電子辞書中、もっとも英語コンテンツの充実したモデルは、2009年発売の「SR-G10001」。
その後、2013年3月中旬発売が発表された「DF-X10000」が、全メーカーの電子辞書中、もっとも英語コンテンツの充実したモデルとしての役割を引き継ぎそうだ。
これといった動きのなかったセイコーインスツルだが、2012年の終わり、斬新な2013年モデルのニュースリリースが出た。
製品番号「DF-X」ではじまる新シリーズ。タッチ操作のカラー電子辞書「DAYFILER(デイファイラー)」のブランドを持つ新モデル。無線LAN機能を内蔵するインターネット電子辞書だ。タッチして反応するだけのタッチパネルではなく、フリックスクロールやピンチによる拡大・縮小も可能なカラータッチパネル搭載。Wi-FiモデルのタブレットPCやスマートフォン、電子書籍リーダーにも似た機能性・操作性だ。
PC検索モード「PASORAMA」進化形「PASORAMA+」搭載。パソコンとUSB接続で「DAYFILER」の持つデータをパソコンから活用できる。無線LANでネット接続して、ブラウザを使った検索も可能。2013年公開予定の専用サイトから追加辞書をダウンロード購入できる。EPUB形式の電子書籍も閲覧可能。
2013年のセイコーインスツル電子辞書は目が離せない。
◆キヤノン
2012年、キヤノン電子辞書はおとなしかった。中国語・韓国語などのメインストリーム以外では、新発売は2012年春発売の高校生向け「Z410」のみ。
近年、中国語・韓国語の学習者や旅行者向けの電子辞書に力を入れつつある。
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